2013年2月9日土曜日

公海上、射撃管制用レーダー事件(10):解放軍の独自判断、日本政府の強行度チェック



●尖閣諸島



JB Press 2013.02.08(金) 宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37120

レーダー照射事件が明かす中国軍の体たらく
再び試された日米新指導者の意志
~中国株式会社の研究(201)

 またまた人民解放軍が性懲りもなくやってくれた。
 2月6日昼、北京で久し振りに米国の親しい友人とイタリア料理を食べていたら、突然筆者の携帯電話が鳴り出した。
 某国有力紙の東京特派員が「ぜひ聞きたいことがある」と申し訳なさそうに切り出した。

 一体何事かと尋ねたら、解放軍海軍の艦艇が海上自衛隊護衛艦に射撃管制用レーダーを照射したという。
 連載第201回目の今回は当初「北京の大気汚染と空気清浄機のバカ売れ」の話を書こうと思っていたのだが、ここは予定を変更し、1月末に起きたレーダー照射事件を取り上げる。

■ロックオン

 いつもの通り、まずは事実関係のおさらいから始めよう。各種報道によれば本事案の概要は次の通りだ。

●.2月5日夜の小野寺五典防衛大臣緊急記者会見によれば、1月30日午前10時頃、中国海軍ジャンウェイII級フリゲート艦1隻から、東シナ海で警戒監視中の海上自衛隊護衛艦「ゆうだち」に対し火器管制用レーダーの照射があった。

●.似たような事件は1月19日午後5時頃にも起きた可能性がある。
 同大臣は、東シナ海において中国海軍ジャンカイI級フリゲート艦から海自護衛艦「おおなみ」搭載のSH60哨戒ヘリコプターに対し火器管制用レーダーが照射された疑いがあるとも述べた。

●.これに対し、2月6日、中国外務省報道官は
 「報道を見てから関連の情報を知った。
 具体的な状況は理解していない。
 関係部署に聞いてほしい」
とのみ述べ、この事案を中国外務省が知らなかったことを示唆した。

 レーダー照射というとあまりピンとこないかもしれないが、2月5日のワシントン・ポスト紙記事はより正確に
 「先週中国海軍艦船が日本の軍艦を火器管制レーダーでロックオンした(A Chinese military vessel last week locked its weapons-targeting radar on a Japanese warship)」
と報じている。

 ご承知の通り、「ロックオン」とは武器を使用する前段階としてレーダーで攻撃対象を捕捉する行為だ。
 解放軍軍人もロックオンされることの重大さはよく知っているはず。
 安倍晋三首相は「不測の事態を招きかねない危険な行為」と述べたそうだが、これは決して誇張ではない。

■新指導者に対するテスト

 結局某国有力紙の国際電話インタビューは20分以上も続いたが、記事の中で筆者の発言引用はたった一文だけ。
 だからというわけではないが、ここでは今回中国海軍が異様とも思える行動を取った背景につき筆者がコメントした内容全体をご紹介したい。

●.今回のレーダー照射は人民解放軍お得意の外国新指導者に対する「テスト」であり、日本側は冷静に対応すべきである。

●.今回の「テスト」は、昨年12月に発足した安倍晋三新政権(とバラク・オバマ第2期政権)が中国側の将来の軍事行動に対し「如何に反応するか」を試すためのものだった可能性が高い。

●.解放軍のこの種の「テスト」は決して目新しいものではなく、過去十数年間だけ見ても、解放軍海軍・空軍は米国の新大統領の反応を少なくとも2回「テスト」している。

●.第1は2001年4月1日の海南島での米海軍偵察機不時着事件、第2は2009年3月8日の南シナ海での米海軍調査船活動妨害事件であり、いずれも当時のジョージ・W・ブッシュ大統領、オバマ大統領の就任後数カ月以内に起きている。

●.今回の事件も安倍内閣発足から2カ月以内に発生しており、タイミング的に見て、これらの事件がそれぞれ偶然に発生したとは到底思えず、同様の「テスト」が先の野田佳彦内閣誕生時などに対し行われた可能性も十分あるだろう。

●.いずれにせよ、通常の軍事的常識では考えられない無謀で危険な行為だが、
 今回の事件につき解放軍海軍から中国外務省に事後連絡すらなかったことは決して驚きでなく、
 また、このレーダー照射が党中央の指示に基づいて行われた可能性も低い
だろう。

■テストに合格?

 「それで日本はこのテストに合格したと思うか?」
電話してきた特派員は畳みかけるように聞いてきた。
 「もちろんそうだ、今回の日本側の対応は極めて適切だったと思う」
と前置きし、筆者はこう続けた。

●.今回日本側は中国側に対し「2つのメッセージ」を送った。
 ①.第1は、あのような危険な挑発に対しても、日本側は冷静に対応し、日本側から事態をエスカレートさせる意図がないことを改めて示したのであり、「テスト」は中国側だけでなく、国際的にも「合格」だったと思う。

●.②.第2は、日本側がこの問題をあえて公表したことだが、
 これの目的は、中国側の挑発行為を日本側はもちろん、米国を含む国際社会が容認しない
という強い警告メッセージを伝えることだったと考える。

●.こうして日本が「テスト」に合格した以上、当面中国側はこの種の行為を自制するだろうし、また、そうしなければならない。
 中国側がこの2つのメッセージを正確に理解することを祈っている。
 さもなければ、この種の挑発が続き、日中関係は深刻な事態に発展するだろう。

■軍隊の体をなしていない解放軍

 筆者のコメントは以上だ。
 これだけ喋らされて、引用がたった一文とは。
 ちょっとがっかりしたが、そこは仕方がない。
 英語によるインタビューの場合、引用されれば運が良い、と割り切っている。

 それにしても、この人民解放軍海軍の体たらくには改めて驚くばかりだ。

 もしも、
 ある巨大な軍隊が、中央からの具体的指示なしに独自の判断で、日米の海軍に対しほぼ定期的に「反応テスト」を行うだけでなく、
 そのことを外交当局にも党中央にも知らさないのだとしたら、
 一体その武装組織は何なのか。

 やはり人民解放軍は通常の軍隊ではない。
 プロフェッショナルな軍隊であれば、指揮命令系統が明確で、責任の所在もはっきりしているものだ。
 そんな基本的なことも今の解放軍には決定的に欠けているのだろうか。

 こんな軍隊がまともに戦えるわけはない。
 むしろ、戦えば逆効果だろう。
 このことを中国人は数千年の歴史の中で知っているのだろうか。
 このような国と人々だからこそ、「戦わずして勝つ」ための孫子の兵法が発達したのだろう、などと氷点下零度の北京で改めて考えた。

 次回こそは急速に変化しつつある北京市内の状況をご報告申し上げる。


 「解放軍の軍事バカがやった」ものだと思っていたが、
 この著者は別の見方をしている。
 解放軍が独自の判断で、共産党や政府になんらの連絡もせずに意図的に、
 「日本の出方を伺うため」にやったものだ、ということである。
 もしそうであるとすると、解放軍は政府・共産党とは意を同じくしない独立機関だということになる。
 今回のドタバタ劇をみると確かにそういう見方が正解かも知れないと思えてくる。
 もし、解放軍が共産党軍でないとしたら、どういうことになる。
 これは少し考えないといけなくなってきた。

 もし仮に上の論をさらに進めると、陸軍、海軍、空軍の三軍がそれぞれに独立性を持っている可能性があるということになる。
 今回の場合は海軍だが、空軍は大いにありえる。
 空軍はエリート軍団だから、もしそういう方向付けなら、明らかに独立性が強いとみてよい。
 とすると、この三軍に結束力はどうか。
 通常、各軍は独自機関であって、それを上にある共産党がまとめ上げるというのがスジだろう。
 もし、共産党と各軍に絆がアヤフヤだとすると、各軍の関係はさらに疎遠で、各々勝手にやっているということになってくる。

 では、陸軍はどうか。

2013年1月17日、長江日報によると、中国人民解放軍陸軍は18の集団軍に分かれており、うち8集団は首都北京周辺の防衛を担当している。

 とある。
 ということは、共産党が完全コントロールできているのは、この陸軍の4割ということになるのだろうか。
 つまり、日本の20倍はある国土なのに、陸軍の4割ものを北京に貼り付けておくのはどういうことか。
 この8集団は絶対に共産党コントロール下においておきたいという現れということになる。
 ではあとの6割はどうか。
 陸軍はどちらかというと共産党に忠実とみたほうがいいだろう。
 しかし、任地が遠いということは、何かあったときは海軍や空軍のように共産党の制御下から離れる可能性もあるということでもある、と見ているということだろうか。

 ちなみにいうと共産党は完全支配の武装警察をもっている。
 これが共産党を守っている。

サーチナニュース 2013/01/30(水) 14:13
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2013&d=0130&f=politics_0130_011.shtml

習近平総書記、近代化した武装警察部隊建設を呼びかけ

  中国の伝統的な祝日である春節(旧正月)を間近に控え、中国共産党中央総書記・中央軍事委員会の習近平主席は29日、武装警察部隊を視察し、旧正月の挨拶(あいさつ)を述べた。中国国際放送局が報じた。

  習主席は 
 「使命と責任を銘記し、任務遂行の能力を高め、部隊の高度な統一や安全・安定を確保し、党の指示に従い、戦争に負けない近代化した武装警察部隊を建設するよう」
呼びかけた。
』 

 どうもいまや共産党から解放軍は一歩間をおいて独自に動いている公算が大きいといえる。
 特に、海軍や空軍はその色が濃厚のようだ。
 問題はそうするとどうなる?
 ということになる。
 尖閣問題については海軍の動きが一番気になる。
 海軍なくして尖閣問題は語れないからである。
 自衛隊が解放軍にメッセージを送ったとするとその内容をどう解放軍は受け止めるかである。
 おそらく、自衛隊はあと一回のレーザー放射は許すだろう。
 そして
 「中国側は先の警告にもかかわらず、再びレーザー照射を行った」
と、公表するだろう。
 これにより自衛隊は公的に攻撃権を手に入れたことになる。
 「自衛という目的」で 。
 おそらく、これは自衛隊にとって、最もベターなシュミレーションとなるのだが。
 つまり、「4回目以降は許さない」という強いメッセージになる。
 いわゆる
 「仏の顔も3度まで」
である。
 もし、三度目が行われれば、自衛隊は当然、これまで手控えていた尖閣領域に艦艇を入れるだろう。
 そうなったら、もう結論は出てしまう。
 日本は絶対引かないし、中国はキャンキャン言うが吠えるだけになってしまう。
 解放軍は日本のやる気を見てとり、手出しができなくなる。
 解放軍海軍は自衛隊相手に戦いなどしない。
 兵器というオモチャを使ってみたい誘惑にはかられるが、虎の子の最新鋭駆逐艦を沈められ、緒戦で大きな損害を被ったら、解放軍海軍の立場はなくなってしまい、甘い汁は吸えなくなる。

 空軍がジェット戦闘機を入れることも危険になる。
 航空機の往来はちょっとした偶然で戦争に発展する可能性がある。
 日本はそれを狙ってくる可能性もある。
 意図的に戦争に引き釣り込んで
 中国空軍の評判を落とせば例え戦闘が引き分けで終わっても、対外的には日本の勝ちになる。
 中国は絶対勝利でなければならない宿命を背負っている。
 というのはこれまでそう内外に誇示してきたからだ。
 空軍はエリート集団であり、海軍よりはるかに万国公法にそった動きをする。
 海軍のように何かを試しにやってみるなどということはしない。
 やればそのまま戦争に突っ走る危険性を孕んでいるのが空である。
 選ばれた集団の矜持として、空軍はそういうことをしない。
 おそらく、空軍は共産党が開戦を主張しても反対を唱えるだろう。
 小さな島のために、その代償として貴重な戦闘機を撃墜されたくはないし、尖閣を奪還したとしても、その後制空権を維持し続ける責任を負わされることには大きな不安が残る。
 となれば強硬な反対論を唱えることになる。
 制空権を維持するするために、どれほどの戦闘機が撃墜されるかを想像しただけでも血の気が引いていくことになる。
 それらを懸案すると、もう中国の軍事選択肢はなくなってくる。

4枚の切り札で日本に報復する
=「外交・経済・世論・法執行の手を緩めず」―中国
と、言ったように軍事を切り札から外すことになる。

 ということになれば、著者のように

 やはり人民解放軍は通常の軍隊ではない。
 プロフェッショナルな軍隊であれば、指揮命令系統が明確で、責任の所在もはっきりしているものだ。
 そんな基本的なことが今の解放軍には決定的に欠けているのだろうか。
 こんな軍隊がまともに戦えるわけはない。
 むしろ、戦えば逆効果だろう。
 このような国と人々だからこそ、「戦わずして勝つ」ための孫子の兵法が発達したのだろう。

ということになる。
 ではそのかけている「基本的なこと」とは何か。
 それは人民開放軍とは「私軍」であって、「国軍」ではないということである。
 国軍なら戦艦や戦闘機の消耗は戦争行為がもたらすものとしてあたりまえのことである。
 それによって責任を追求されることはない。
 しかし、それが私軍では、そうはいかない。
 兵器の損傷はそのままその集団の価値に反映してしまう。
 武器数の少ない軍隊は、孫氏の兵法の意識では中核から外れてしまうのである。



【中国海軍射撃用レーダー照射】



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