2013年2月12日火曜日

北朝鮮の新たな資本主義者たち:最終的には中国国民が選択

●国民は労働者のユートピアが大いなる嘘の上に建てられたことに気づき始めている〔AFPBB News〕


JB Press 2013.02.12(火) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年2月9日号)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37122?page=3

The Economist
北朝鮮:新たな資本主義者たち

 北朝鮮がまたしても核による挑発をしかけているが、それでも世界で最も抑圧された国民には、かすかな希望が見えている。

 つい最近まで、北朝鮮ウォッチャーらは、新指導者の金正恩(キム・ジョンウン)氏が近代化に取り組むかもしれないと予想していた。

  革新的な若き独裁者は、ファッショナブルな妻を伴って人々の前に姿を見せていた。
 亡き父の演説が商品豊富な平壌(ピョンヤン)のスーパーマーケットと同じくらい珍しいものだったのに対し、金正恩氏は実際に公の場で演説をした。

 だが最近の金氏は戦争を予言して、典型的な北朝鮮の指導者に逆戻りしている。
 専門家は、北朝鮮の豊渓里(プンゲリ)にある地下坑道でまもなく核実験が行われるのではないかと懸念している。
 これが実施されれば、金氏は「アジアで一番ののけ者」という一族の称号を継承することになる。

 欧米が最も目を引かれる北朝鮮の特性は、核の脅威と指導者のたちの悪い異常性だ。
 だが、本誌(英エコノミスト)の解説記事でも触れているように、その下から革命的な力が生まれ始めている。
 新しいタイプの交易業者や商人たちだ。

 竹のカーテンの隙間から、資本主義が染み込みつつある。
 それは中国の鄧小平時代のように、政権の主導で起きていることではない。
 北朝鮮はキューバよりも旧ソ連よりも抑圧され、発展が遅れている。
 現政権が、すぐに、簡単に倒れることはないだろう。
 短期的には、不安を膨らました金氏が、近隣諸国に対するさらに大きな脅威になるかもしれない。

 しかし今、おなじみの図式が現れつつある。
 世界はそれを後押しするために、できるだけのことをすべきだ。

■チュチェ思想が裏目に

 金正恩氏の祖父にあたる金日成(キム・イルソン)氏は「チュチェ(主体)」思想に基づき、北朝鮮に自らの戦後の楽園を建設した(ただし、旧ソ連の強力な支援を受けていたが)。
 当初は、北朝鮮と韓国の経済力は同程度だったが、1970年代から北朝鮮の自給自足的経済は崩壊し、非効率な状態に陥った。

 巨大な軍隊が資源を独占した。
 国有工場の管理者と労働者は施設を丸裸にし、価値のあるあらゆるものを、新たに生まれた闇市場で不法に売り払った。
 現在、推定20万人の北朝鮮国民が強制収容所に投獄されたままになっている。
 韓国の1人当たりの生産高は、北朝鮮の17倍を超える。

 韓国の20歳の若者の身長は、飢えと栄養不足に成長を妨げられた北朝鮮の同年代よりも6センチ高い。

 1990年代になると、飢饉がきっかけとなって、北朝鮮に新しいタイプの交易商人が生まれた。
 その多くは小自作農で、女性であることも多く、一族の農地で採れた野菜を売っていた。
 正確な情報は不明だが、今明らかになりつつあるのは、現在のほかの商人たちが、それよりもずっと野心的な規模で商売をしているという事実だ。

 彼らは原材料を中国へ輸出し、消費財を持ち帰っている
 そうした商人たちは、非公式の両替システムを利用して、資金を北朝鮮に出入りさせている。
 首都では、現金を手にした人たちがレストランへ行き、スロットマシンで遊んでいる。
 シュールに聞こえるかもしれないが、彼らは北朝鮮の「にわか成金」なのだ。

 資本主義者たちは北朝鮮に定着している。
 政府はたびたび彼らを一掃しようと試み、農民の市場に圧力をかけたり、密輸を取り締まったりしてきた。
 だが、今の北朝鮮では、カネがものを言う。
 そして多くの交易商人は、賄賂で難を逃れられるだけの現金を持っている。

 しかも、彼らは経済になくてはならない要素になっている。
 産業が著しい機能不全に陥っているため、彼らが供給する輸入資材がなければ、平壌で高層ビルを建てることはできないのだ。

■抑圧された国民に「事実」を突きつける資本主義

 中国と同様、資本主義は外の世界を招き入れる。グロテスクな嘘だけを与えられてきた国民にとって、それは重大な変化だ。

 腐敗した国境警備隊と治安部隊に賄賂を渡せば、宗教的な理由であれ政治的な理由であれ、決意を固めた人が情報を出入りさせるのは不可能ではない。

 交易商人が売る携帯電話、コンピューター、ラジオが、国による真実の独占状態を侵食しつつある。

 メモリースティックで密輸入されるテレビ番組や映画は、南の同胞たちが、真夜中にドアを叩く音に怯えることもなく、快適で豊かな暮らしを営んでいることを伝え、革命の種をはらんだ事実を北朝鮮国民に突きつけている。

 「労働者のユートピア」が、大いなる嘘の上に建てられていることに、彼らは気づき始めている。

 北朝鮮の資本主義者たちが大きな意味を持つのは、彼らが国家治安に関わる体制派からやや距離を置いているからでもある。
 金一族は常に、北朝鮮建国時に革命の中心になった一族たちの階級で周りを固めてきた。
 何十年もの間、権力はそうした階級に独占されてきた。

 だが、商人の中には、金一族を取り巻くサークルの外から出てきた者もいる。
 そしてどの商人も、富に対する鋭い目を持っている。
 交易商人たちは現体制から利益を得ているが、それでも支配層に比べれば成長を重んじ、治安をそれほど重視しない傾向にある。

 政府が管理する経済のあちらこちらでは、資源を巡る競争も生じ始めている。
 その結果、かつては一枚岩だった国に亀裂が入りつつある。

 もう何年もの間、世界と北朝鮮の交渉と言えば、もっぱら北朝鮮に核開発計画を思いとどまらせるためのものだった。
 確かに北朝鮮の核計画は、平和に対する深刻な脅威だ。
 だが、これまでの交渉方針は、ほとんど失敗している。

 現在の核実験の脅迫は、北朝鮮が繰り返してきた挑発の最新版にすぎない。
 嘘と脅しと恐喝を盾にして交渉のテーブルに押し入っても、結局はまた席を蹴り、けんか腰の孤立に戻ってしまう。
 恐らく、金氏が武器を手放すことは決してない。
 なぜなら、それが影響力を誇示するための唯一の道具だからだ。

■朝鮮半島の道

 変化は必ずしも、北朝鮮を安全なものにするとは限らない。
 政権を不安定にし、短期的には一層危険を高めるかもしれない。
 中国はそれを恐れている。
 中国にとって、鴨緑江を渡って難民が押し寄せ、
 韓国や米国の軍隊が国境に迫ってくることが、戦略上の悪夢なのだ。

 だが長い目で見れば、北朝鮮の危険を和らげる最善の方法は、金一族の牙を抜くことだろう。
 そのためには、冷戦中に欧米が東欧でしたように、あらゆる機会を捉えて現政権を切り崩す必要がある。

 国民に外の世界の繁栄と自由を見せる以上に効果的な方法はないことを、ソビエト時代が教えてくれた。
 だからこそ世界は、北朝鮮国民が旅をして国外でスキルを得るための資金を提供し、北朝鮮向けラジオ局を支援し、ドキュメンタリーや映画を持ち込む教会ネットワークを援助し、密輸のネットワークや商人は大目に見なければならない。

 中国の政策は矛盾している。
 金政権を支える一方で、中国政府の高官たちは、35年前に中国を変革した経済政策をなぞることを北朝鮮に勧めている。
 だが、発展と安定――金一族が象徴する息が詰まるような安定――は、両立するものではない

 最終的には、中国国民が選択を迫られることになる。
 金氏がどんな気まぐれを見せようが、それはどこにも行き着かない。
 北朝鮮の資本主義者たちは、少なくともそれよりは良いものを約束する。
 中国は彼らを支援すべきだ。

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英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。






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