2013年2月20日水曜日

中国の地方債務が金融危機の引き金に?:景気が良くても悪くても危機を引き起こす


●図1 地方政府正規歳入伸び率の推移(資料:「財経」2013年1月7日号)


JB Press 2013.02.19(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37157

中国の地方債務が金融危機の引き金に?
地方政府の財政システムにメスを入れよ

 2011年3月、格付け機関フィッチは、
 「2013年までに中国が実施した一連の景気刺激策と金融緩和策は、60%の確率で金融危機をもたらす可能性がある」
と警鐘を鳴らした。

 それに対して、米ピーターソン国際経済研究所の中国経済専門家のN・R・ラーディー氏は新しい著書“Sustaining China’s Economic Growth after the Global Financial Crisis”の中で、
 「中国の公債はすでに明らかになった分だけでGDP比で2割程度であり、この程度の公債で中国が大規模な金融危機に陥ることは考えにくい」
と指摘している。

 それよりも中国の財政の大きな問題は、明らかになっていない地方政府の隠れ債務である。

 現在のルールでは、地方政府(自治体)は商業銀行からの借り入れが認められていない。
 だが、地方政府は地下鉄や道路などインフラ整備のための資金需要が旺盛であり、商業銀行の中長期的な融資の多くは地方政府に帰属する投資会社に向かった。

 商業銀行が直接地方政府に融資するのは違法だが、地方政府帰属の国有投資会社への貸し出しは違法行為ではない。
 例えば、ある地方政府は商業銀行から直接、資金を借り入れることはできないが、地下鉄建設会社を設立して、それを受け皿にして商業銀行から資金を借り入れるのは違法ではないということである。

■目に見えない国有投資会社のキャッシュフロー

 2011年、国家審計署(会計検査院)は地方債務の調査結果を公表した。
 それによると、地方債務残高は12兆元程度と言われる。
 2011年の名目GDP比で計算すれば、2割いかない規模だった。

 だが、この調査の結果については「氷山の一角」との声が多かった。
 地方債務のすべてが表面化しているわけではなく、地方債務の問題は依然深刻なレベルにあると見られている。
 地方債務の規模を100%明らかにすることは難しい。特に違法な融資やグレーな資金の流れについては、いくら国家審計署といってもすべて明らかにすることは不可能だ。

 ここで重要なのは、現在の財政システムと金融制度が、地方政府の現実的な資金需要に応えていないということである。

 銀行業監督管理委員会(CBRC)の幹部は、資金の供給と需要が対称的になっていないと認めている。
 図1に示したのは地方政府の正規歳入の推移であり、2011年に入ってから伸び率は次第に減少している。

 もう1つの問題は、地方政府と、それに帰属する国有投資会社との関係が複雑化していることである。

 地方政府は地下鉄などのインフラを整備するために、国有投資会社を設立している。
 地方政府はこれらの国有投資会社の株主であると同時に、経営にも参画している。す
 なわち、国有投資会社では監督、所有と経営が一体となっている。

 その国有投資会社が商業銀行(の地方支店)から資金を借り入れる際に、商業銀行が適切にリスクと期待収益を評価して融資を決めているかどうかは疑わしい。

 また、国有投資会社は地方政府の保護の下にあるため、借り入れた資金が適正に使われているかどうかも明らかではない。
 何よりも、国有投資会社の経営陣は、たとえ投資が失敗しても株主の地方政府が守ってくれるので緊張感が足りない。

 考えてみれば、半ば内部化されている地方政府の国有投資会社のキャッシュフローを、いくら国家審計署といえども明らかにすることは難しい。
 地方債務危機は杞憂とは言えないのである。

■土地使用権の売り上げを地方政府の財源に

 一方、いくら地方政府が商業銀行の地方支店に圧力をかけても、商業銀行が国有投資会社への貸し出しを増やすには限界がある。
 なぜならば、商業銀行は自らの経営リスクを無視して国有投資会社に資金を融通することはしないからである。

 一般的に地下鉄などのインフラ投資の収益性が低いのは最初から分かっている。
 そのため、多くの地方政府は金融市場以外のところで資金を手当てしなければならない。

 胡錦濤政権になってから、温家宝首相は都市の再開発を「大義名分」として、土地の使用権(定期借地権)の払い下げを自由化した。
 しかも、土地使用権の払い下げの売り上げが、地方政府の財源に充てられるようになった。

 その結果、地方政府にとって、土地使用権が高く売れる方がより多くの財源を手に入れられるようになった。
 地方政府は自ら地上げに乗り出し、土地バブルをもたらす背景となった。


 図2に示したのは地方政府による土地使用権払い下げの売り上げの推移である。

 2012年、朱鎔基前首相は母校の清華大学の設立100年記念イベントで演説を行い、土地使用権の売り上げを地方政府の財源に充てることはまったく愚策だと痛烈に批判した。

■根本的な解決にならない中央政府による管理強化

 2012年12月、財政部は「地方政府による違法融資行為を抑制することに関する通知」を通達した。
 この通知の署名には、財政部に加えて、国家発展改革委員会、人民銀行(中央銀行)と銀行業監督管理委員会も名を連ねていた。

 財政部長(大臣)の謝旭人は内部の会議で、
 「2013年の改革の重点として、地方政府の債務管理を強化する。
 債務の規模の管理とリスク管理のウォーニングシステムの構築を急ぎ、地方政府の債務を政府の予算管理に組み入れ、徐々に地方政府による債務借り入れを規範化し、地方政府による新規借り入れを厳しくコントロールする」
と述べている。

 この発言の問題意識は正しいが、改革の方向性は間違っていると言わざるを得ない。
 なぜならば、謝財政部長の考えは、あくまでも中央政府による管理を強化することで、地方債務の問題をコントロールしようとしているからである。

 インフラ投資など、地方政府の資金需要が旺盛であることは事実である。
 それを抑えることだけでは問題の解決にならない。
 何よりも、中央政府による管理の強化だけでは、地方政府の財政規律と資金効率の向上を実現することができない。

■実態が掴めないシャドーバンクからの借り入れ

 中央政府は再三にわたり地方債務の整理整頓に乗り出したが、その全貌すら掴むことができていない。

 正規の金融市場を通じて調達した資金の大半は解明されつつあるが、商業銀行のオフバランスの資金融通がどれぐらいなのかは明らかではない。
 また、シャドーバンク(影の銀行)と呼ばれる、監督当局の規制が緩い非正規金融市場からの調達も謎のままである。
 一説によれば、地方政府によるシャドーバンクからの借り入れは最低1兆6000億元に上ると言われている。

 シャドーバンクからの借り入れの規模は、全体の割合で見た場合、決して大きくはないが、レバレッジがかけられていることを考えれば、地方政府のキャッシュフローに問題が生じるきっかけになる恐れがある。
 だが、シャドーバンクからの借り入れと資金運用の情報はほとんど知られていない。

 また、資金のコストは正規金融市場からの借り入れに比べ、はるかに高い。
 さらに、短期の借り入れをインフラなどに投資する長期の運用が一般的であるため、デフォルトのリスクが高い。

 それに加え、非正規金融システムの存在は商業銀行など正規の金融システムの発展を妨げ、金融当局の金融政策を邪魔する可能性が高い。
 したがって、地方債務を整理するために、シャドーバンクを規制する必要がある。
 同時に、金融制度改革の一貫として、非正規金融システムを正規の金融システムに組み入れることも不可欠である。

 中国では、無理をしてでも高い成長を維持することが政府にとって呪縛のようなものになっている。
 経済成長が減速すれば失業が深刻化する恐れがあるうえ、政府に対する国民の批判が強まり、共産党への求心力が低下する恐れもあるからだ。

 しかし、無理に高い成長を実現しようとすると、過度な投資を行わざるを得ない。

 景気が過熱気味になると、政府は金融引き締めへと政策方針を転換する。
 その局面において、地方政府は非正規金融システムからの調達を増やす。
 それに対して、平時においては、地方政府は土地の払い下げ代金に加え、商業銀行からの借り入れを増やし、バブルを助長する。

 このことは、景気が良くても悪くても、地方政府の債務問題は常に危機を引き起こす恐れをはらんでいることを示す。

 地方政府の債務問題を抑制するために、中央政府は、地方政府に帰属する国有投資会社のファイナンスの管理監督を強化しようとしている。
 だが、根本的な問題はそこになく、地方政府のファイナンスそのものにある。

 中央政府による地方政府の管理は厳しくなったり緩くなったりしがちである。
 また、時間が経つにつれ、地方政府は中央政府の管理の「常套手段」に徐々に慣れてくるため、その効果が次第に低下してしまう。
 このことは中央集権政治体制の限界を意味するものである。



【中国海軍射撃用レーダー照射】

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